風琴工房


温泉ツアー顛末記−その2−

遭難と天然記念物


遭難の恐怖について

 宿への道は川沿いの細い道であった。急に道路の幅も狭くなり、雪の量も一気に増えているように見受けられる。
 「宿の人に迎えに来てもらおうよ」と言う一同の声にも耳を貸さず、「大丈夫ですよ」と例のニコニコ顔で車を発進させるシンゴ。と、その時、カーブを曲がろうとして、タイヤが雪にガゴッとハマった気配が。降りてみると、ふわふわの雪の深みに前輪をガッチリとられている。しかも、バックしようにも後ろはガケ。押せどもひけども車は動かず、とっぷりと日は暮れていく。宿に電話するもご主人は結婚式に行ってしまったとかで、留守宅を守る奥様しかいない。大ピンチ。
 とぼとぼと山道を下り、菅原さん(詩森夫)とふたり近場の宿にスコップを借りに行く。雪かき用のスコップを借り、車まで戻ると、シンゴ、松岡、あきやまの3人はまるで人ごとのように車のなかでお菓子を食べながら、私たちが雪をかく姿を見てゲラゲラ笑っている。どーゆーことだ、いったい。後で問いつめると「楽しそうだったから」とのことだが、楽しいハズがないぢゃあないか。
 ようやくタイヤの回りの雪をかき終え、さあ、押すか、というところに、山の上の方から車のヘッドライトが!それはなんと、旅館の奥様から救出要請を受けたという方であった。テキパキと指示を出しながら、手際よく車を救出し、しかも、我々の車をバックで下までおろしてくれる「サバイバルな男」は、女子のハートを一気に鷲掴み。しかも我々を先導し、宿までたどりつくと「お礼なんていりません」とばかりに、さあっと消えてしまった。定石通りとはいえ、ステキすぎる。あきやまさんに至っては、「K村に残る」と言いはじめる。
 こうして東京を出てから7時間、ようやく今日の宿泊地「S」に到着したのであった。

手作り豆腐の夕べ

 お風呂に入ってから、夕食をいただく。食いしん坊シンゴが推薦する宿だけあり、宿の料理は質・量ともに素晴らしい。特におばあちゃんが朝3時に起きて作るという手作り豆腐の味は絶品である。舞茸の揚げ物、里芋の味噌カンプラ、手打ちウドンとなにもかもが美味しい。オカズを食べきるだけで胃がはち切れそうだ。なのにシンゴはゴハンまでおかわりしつづけ、詩森が知っているだけで5杯のゴハンを平らげる。オヒツが空になったのにはドビックリである。まあ、そんなこんなでまたお風呂に入り、ゴロゴロしたり、オシャベリしたり。
天然記念物ヤマネとの邂逅

 お風呂に行った菅原さん(詩森夫)さんがいつになく興奮した様子で部屋にやってきた。「ヤマネがみられるよ。今だけだよ」
 ヤマネって、あの、ヤマネ?天然記念物のヤマネかい?
 一同ワケもわからぬまま、階段をかけ下る。
 この時点でイメージしていたのは、庭の木とかにヤマネが来てそれが見られる、という図である。
 しかし階段をかけ下った我々を待っていたのは、結婚式に行っていたハズの宿の主人とタオルを掛けられた小さなケージであった。
 ご主人やおらにタオルを外すと、巣箱のなかにいたヤマネをバサッと振り落とす。右往左往しつつケージのなかを駆け回るヤマネ。か、かわいい。そして、なんて小さい。ハツカネズミくらいの大きさだが、しっぽにちゃんと毛が生えているのもケナゲなかんじである。
 その後、酒を飲みつつご主人と話したところによると、このヤマネ、冬眠しそこねて宿の客室をウロウロしていたところをホゴされたらしい。しかし、やはり天然記念物なので、環境庁にバレるとまずいとのこと。なので、このツアー記では温泉名も宿の名も匿名とさせてもらった。
 宿にある写真を見ていたら、部屋の中に「カモシカ」がいる写真があってドキモを抜かれる。それはなんでも隣の家に遊びにくる「カモシカ」であるらしい。まだ目もあかぬ赤ん坊の頃拾ってしまい、ある程度大きくなるまで保護した後、山に返したのだそうだが、いまだにそこの家のお爺ちゃんを親と慕い、一日2回、エサを食べに来るんだそうである。あの用心深い野性の動物カモシカが……と、アンビリーバブルな気持ちになる。庭木にくくりつけた木箱にはモモンガもいる。おそるべしK村。
菅原さん(詩森夫)K村の仙人としてスカウトされる

 宿の主人と我々一行はそのまま酒席へと突入する。その席でなぜか宿の主人は菅原さん(詩森夫)をいたく気に入り、「あんたには都会は似合わないからK村で仙人として生きていってはどうかとすすめられる。
 それはいったいぜんたいどういうことなの。
 満更でもない菅原さん(詩森夫)。このままK村の住人として暮らしていくのだろうか。しかも仙人として。似合いすぎるよ。そんな人生。
宿の主人は絶好調で、かえす刀で、こんどはアッキーに知人の画家の嫁になれと言う。
 「せっかく嫁にいくなら、さっき助けてくれた人のほうが…」と食い下がるアッキー。すると「あの人はねー、独身だけど」と暗い顔になるご主人。独身だけどなんだっていうんだろう、と身構える私たち。
 「独身だけど、バツイチだから」。
 いいじゃないっすか、バツイチ。人生酸いも甘いも噛み分けたサバイバルな男、最高ですよ。
 そんなこんなで夜も更けて、仙人は酔いつぶれ、松岡もつぶれ、ひとりまたひとりと沈没し、明け方近くようやく就寝。
(「温泉ツアー顛末記その3」に続く)

 
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